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「新NISAはオルカン1本でOK」はホント? 向いている人・向いていない人の決定的な違いとは

新NISA開始により、SNSではどの商品を選べばいいかの議論が盛り上がりを見せている。そのなかで、もっとも見かける言説の1つが「オルカン」の愛称でおなじみ「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に代表されるような、「全世界株式インデックスファンド」1本を買い付ければOK、というもの。ファンドアナリストの篠田尚子氏は最初の1本としては無難としつつも、商品性を知らぬままに“1本”とすることには警鐘を鳴らす。そこで、注意点を解説してもらった。

記事提供:Finasee(フィナシー)


SNSやネットの「オルカン推し」
は妥当なのか

数あるインデックスファンドの中でも、「オルカン」こと「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」をはじめとする「全世界株式インデックス」に連動する商品は、今やすっかり個人投資家の間で定着した。SNSやネット上を含むさまざまなメディアでも、「新NISAは『オルカン』1本でOK」、「金融のプロが選ぶ商品はコレ」といった具合に、「オルカン推し」のキャッチーなメッセージが次から次へと発信されている。

ファンドアナリストとしての筆者の見解を先に申し上げておくと、「オルカン」含め、「全世界株式インデックスファンド」は使い勝手の良い商品ではあるが、決して万能ではない。服に例えるなら無地の白いTシャツやブラウスといったところか。あくまでも、最初の1本として提案するには無難で、万人受けする商品と表現した方が的確かもしれない。

そこでここからは、「全世界株式インデックスファンド」の特徴や注意点について今一度冷静に確認するとともに、同タイプのファンド1本でもよいケースとそうでないケースについて解説していく。

「全世界」といっても、
そのうち6割は米国に集中している

まず、「全世界株式インデックス」とは、文字通り、新興国を含む世界の投資可能地域を概ね網羅した指数である。最もメジャーなのは、米モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)社が算出するMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスで、All Country World Indexの頭文字を取ってACWI(読み:アクウィー)と呼ばれている。もう1つは、英国に拠点を置くFTSE(読み:フッツィー)インターナショナル社が算出するFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスである。MSCIが大型株と中型株を対象としているのに対し、FTSEは小型株も対象としている。このため、FTSEの方が構成銘柄数こそ約9000と多いが、構成国や肝心のパフォーマンスに大きな差はない。

具体的な国別の上位構成比を見てみると、いずれの指数も、米国60%、日本6%、英国4%、中国3%程度と、米国に大きく偏っている。これが、1点目の注意点である。

「全世界株式インデックス」に限らず、指数というのは基本的に、現在の市場規模を反映している。将来予測が入り込む余地はないため、例えば、5年後、10年後の上昇が期待される地域や銘柄を重点的に取り入れることはできない。反対に、将来性に疑問符が付く投資先をあらかじめ排除することもできない。

最近は、新興国の有望な投資先としてインドに注目が集まっているが、「全世界株式インデックス」におけるインドの組み入れはわずか2%程度である。もし、将来の成長に期待して、インドをはじめとする有望な投資先を今のうちに取り入れておきたいなら、別途追加するなどの工夫が必要だ。

時価総額加重平均型ゆえに
“分散度合い”は低下している

2つ目の注意点として、「全世界株式インデックス」は時価総額加重平均型の指数なので、時価総額の大きい、大型株の値動きに左右されやすいという特徴がある。現在は、アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベットの4社だけで指数構成比の10%超を占め、10年前と比べると、上位銘柄の依存度が高まっている。その結果が、先述した指数全体の約60%を米国が占めるという実態になっている。

インデックスは少ないコストで、効率よく分散効果が期待できる投資方法ではあるが、近年、分散度合いが低下しているという事実は押さえておきたい。

歴史的円安が引き起こす“錯覚”に注意

3つ目の注意点は、近年の急速な円安進行がもたらす「錯覚」である。

突然だが、新型コロナウイルスが猛威をふるっていた2020年12月、1ドルが何円台だったか覚えているだろうか。

答えは103円。ドル/円は2023年12月現在、147~150円前後で推移しているので、2020年12月から、3年の間に4割以上も円安が進んだことになる。

この急速な円安進行は、「全世界株式インデックス」のほか、「S&P 500指数」や「ニューヨーク・ダウ指数」など、米ドル建て指数への連動を目指すインデックスファンドの成績を50~60ポイント程度押し上げている。上記指数のインデックスファンドは、3年間でプラス70~80%のリターンを記録しているが、このうち実に60ポイント程度は、円安進行によってもたらされたものである。意外に思われるかもしれないが、現地通貨ベースでリターンを比較した場合、足元3年に関しては、日経平均株価や東証株価指数への連動を目指すインデックスファンドの方が単純なリターンは高かった。ACWIの6割を占める米国株式市場が緩和的な金融政策と好調な企業業績を背景に力強い上昇を続けてきたことは事実だが、冷静にリターンを分解してみると、その勢いは以前と比べ落ち着いている。

為替変動も重要なリターンの源泉であり、外貨建て投資の醍醐味(だいごみ)ではあるのだが、あまりにも急速に円安が進むと、時に錯覚を引き起こす。足元3年の成績は、「追い風参考記録」程度に捉えておこう。

このように、「全世界株式インデックス」にも注意すべき点はある。特に、3つ目の為替変動について、向こう3年でさらに4割以上円安が進むとは考えにくいことから、指数の実力と為替変動を切り離して考えるよう、今から癖付けておいた方が良い。

まとめると、「オルカン1本勝負」でも良いのは、当面(5年以上)は使う予定がない資金、または、他に投資してみたいと思う商品が思い浮かばないという人になるだろう。「オルカン」はじめ「全世界株式インデックス」に投資するということはつまり、「今」の世界の株式市場を全面的に受容するということである。市場の転換点では大きな下落に見舞われる可能性も否定できないため、「1本勝負」の場合は特に、積み立てで時間分散を図り、じっくり時間をかけて投資し続けることが鉄則だ。新NISAの開始を機に、今一度商品性を確認しておきたい。

※本コラムは、2023年公開当時の制度に基づいた内容になっております。また、今回の公開にあたり一部修正しております。

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執筆者

篠田 尚子(しのだ しょうこ)
楽天証券資産づくり研究所 副所長 兼 ファンドアナリスト

慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【2024年新制度対応版】NISA&iDeCo完全ガイド』『FP&投資信託のプロが教える新NISA完全ガイド』(ともにSBクリエイティブ)。