6月以降、順次“リスト”が更新されている新NISA成長投資枠対象商品。その中には、除外となった「毎月分配型」の抜け道を狙っている、と揶揄される「隔月分配型」や「四半期分配型」が存在する。篠田氏は必ずしも「分配型=悪」ではないとしたうえで、商品を選ぶ際には何点か見るべきポイントがあるという。新NISAスタートまであと3カ月を切ったタイミングで、あらためて分配型の注意点について解説してもらった。
新NISAから“毎月”分配型は
除外だが、分配型ファンドはある
本連載では、これまでさまざまな角度から新NISAの対象投資信託について取り上げてきた。6月以降、成長投資枠の対象投資信託は続々と公表され、10月時点で1682まで増えた。1月の制度開始に向け、「ある程度出そろった」と言ってよいだろう。というのも、新NISAでは、明確に対象外とされている投資信託が相当数存在するためだ。
その代表格が、毎月分配型投資信託である。毎月分配型とは、文字通り、分配金の支払いを目的とし、毎月決算を行う投資信託を指す。複利効果を事実上放棄することになるため、長期の資産形成には不向きであるとして、現存する約2000本の毎月分配型が一律に新NISA対象外となった。
ただし、対象外となっているのは、あくまでも分配頻度が年12回のファンドだけである。年6回の隔月分配型や、年4回の四半期分配型はこの基準に該当せず、計187本(10月時点)が対象ファンドとしてラインナップされている。このことを「抜け道」と揶揄する向きもあるのだが、定期的に分配を行う投資信託(定期分配型)自体が「悪」なのかというと、それは違う。これまで貯めてきたお金を「使う」フェーズに突入した60代以上の投資家にとって、機械的に分配金が払い出される投資信託は使い勝手が良い商品という見方もできる。
では、定期分配型で気を付けるべき点とは何か。
それは、身の丈以上の分配を行っている、つまり、分配金の大部分が元本の払い戻しになっているようなケースである。このようなファンドは、想像よりも速いスピードで資産の目減りが進んでしまう可能性が高く、長い目で見ると、老後の資金計画に影響が出るため注意が必要だ。
「分配金」は何のために
払われている?
そもそもなぜ、身の丈以上の分配が可能なのか。投資信託の世界において、利益が生じていなくても、あるいは、利益以上の分配金の払い出しを認めているのは、「投資家間の公平性」を担保するためである。
投資信託は、原則として「いつでも」「誰でも」購入可能な金融商品である。10年前から保有している投資家でも、決算日のわずか数日前に購入した投資家でも、受け取れる分配金の額は一律である。このように、投資額も、投資開始時期も異なる投資家の資金をまとめて運用するとなると、収益の分配はどうしても不公平が生じてしまう。そこで、後者の「新規参入」の投資家は、投資元本の一部を分配金に充当することで、投資家間の公平性を維持している。
この元本の払い戻しに該当する部分は「元本払戻金」または「特別分配金」と呼ばれる。決算日の直前に資金を投じた投資家は、短期間でよほど基準価額の大きな上昇がない限り、受け取った分配金の大部分、または全部が元本払戻金となっている可能性が高い。運用成績が振るわず、十分に分配原資を蓄えられていないようなケースもまた、元本が払い戻される可能性が高いと言える。
新NISAでは、元本払戻金相当分は、投資信託の売却と同じ扱いになるため、翌年に非課税枠が復活する。非課税枠に実質的な影響がないとはいえ、先述したように、投資元本が想定よりも速いスピードで減ってしまうという事態は望ましくない。
定期分配型を選択肢に入れる際は、単純な分配額の大きさだけでなく、ファンド自体の運用成績にも目を向けることが重要だ。一般的に、成績が振るわない=十分な収益の積み上げがないときに無理に分配を行わないファンドは、分配の健全性が高い傾向にある。定期的なキャッシュフローのニーズがある場合は、こうした運用方針のファンドを複数組み合わせても良い。
「成長投資枠」と聞くと、積極的にリスクを取り、資産を増やしていかなくてはいけないような印象を受けるが、必ずしもそういうわけではない。特に、60代以上の投資家の場合は、資産成長より資産保全に重点を置いた上で、どう効果的に資産を使うかを考えた方が良い。「成長投資枠」ではなく、「自由投資枠」と読み替えて非課税枠を活用してほしい。
なお、20~50代の資産形成層は、そもそも定期分配型は選択肢に入れない方が良い。繰り返しになるが、年6回の隔月分配型も、年4回の四半期分配型も、分配の支払いを主眼に置いて商品が設計されており、長期資産形成には向かないためだ。定期分配型は、成長投資枠の対象ファンド全体の1割程度にとどまるが、ファンドを選ぶ際は、念のため、決算(分配)回数が1または2であることを確認することをおすすめする。
※本コラムは、公開当時(2023年10月)の制度に基づいた内容になっており、今回の公開にあたり一部修正しております。
執筆者
篠田 尚子(しのだ しょうこ)楽天証券資産づくり研究所 副所長 兼 ファンドアナリスト
慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【2024年新制度対応版】NISA&iDeCo完全ガイド』『FP&投資信託のプロが教える新NISA完全ガイド』(ともにSBクリエイティブ)。