文部科学省および日本学生支援機構のデータによると、子ども1人あたりの教育費は進路によって異なりますが概ね1,000万円程度かかります。負担額の大きさから、孫への教育資金の援助を考える祖父母もいらっしゃることでしょう。
資金援助にあたり、金額によっては贈与税が気になるところです。2023年度の税制改正で相続や贈与に関わる制度も見直しの対象となりました。
ここでは、孫の教育資金を援助したいリタイア世代を例に、資金援助時の注意点を整理してみましょう。なお、本記事は2023年度税制改正の大綱をもとに執筆しており、国会可決前であることにご留意ください。
教育資金を援助する方法は?
子どもの教育費は1,000万円にもなると聞き、孫の教育資金の援助を考えた修一(夫:シュウイチ67歳)と陽子(妻:ヨウコ65歳)。早速2人で話し合いです。
孫も1人だけになりそうだし、貯金から1,000万円なら出せそうね。
税金がかからない方法ってないかな?
お孫さんへ教育資金援助を考えているの?
お金のことならFPの僕にお任せ!
お孫さんの教育資金援助を考えているんでしょ?
よかったら聞かせてよ。アドバイスができるかもしれないよ!
1,000万円の教育資金援助、税金はかかる?
私は修一、こっちは妻の陽子。
そこを私たちが負担してやりたいんだ。
できれば、税金がかからない方法でね。
まずは税金について少し説明するね。
教育費を2人が全額支払っても、生活費が共同なら税金はかからないよ。
同居したり、別居でも生活費の援助をしていたり。これには当てはまる?
ちなみに、常識的な範囲のお祝いも税金はかからないよ。
でも、それ以外だと、基本的に利益には税金がかかるんだ。
どんな利益かによって、支払う税金の種類が決まるよ。
1,000万円をポンと渡すと贈与税がかかるんだけど、教育資金の一括贈与や、相続時精算課税制度という方法だと贈与税を抑えられる場合があるよ。
毎年100万円ずつ10年間で渡せばいいんじゃないか?
確かに贈与税はかからないけど、お金を渡した人が亡くなると相続税対象になる場合があるよ。
それと、毎年決まった額だと総額に贈与税がかかるかも。
制度を詳しく見ていこう
暦年課税制度とは
その年の1〜12月に贈与された資産に対して税金が課税されるよ。
この制度であれば年間110万円は税金がかからない。
修一が気になっている制度だよね。ただ、資産を渡した人が亡くなると3年前までに渡した分が相続時に加算されちゃうんだ。
それと、毎年決まった金額だと、「分割して贈与した」とみなされて、総額に贈与税がかかるケースもあるよ。
それと、渡す金額を変えれば税金がかからないかな?
ただ、2023年度の改正で2024年1月1日以降に資産を贈ると、亡くなる前7年間の贈与が相続対象になっちゃうんだ。
7~4年前までは4年間の総額から100万円引くことができるんだけど、相続対象が増えちゃうリスクがあるよね。
ただ、相続税は色々な条件で変わるから、税理士さんに要相談だね。
教育資金の一括贈与とは
銀行や信託銀行で手続きをするんだ。1,500万円まで贈与税がかからなくなるよ。
ただ、教育費以外に使ったお金や、教育費の支払の後の残金に贈与税がかかるから注意。
ちなみに、もし、お金を渡した人が亡くなった場合は、教育費の支払の残金に相続税がかかるよ。
ただ、特別措置もあって、例えば受贈者の年齢が23歳未満だったりすると相続税がかからない場合もあるんだ。この条件は見ておくといいよ。
そういえば、お世話になっている銀行から、2023年の3月までだから急いだほうがいいって案内されたものがあるの。これのことかな?
ただ、2023年度の税金制度の見直しで、3年延長する見込みになったよ。内容は一部変更になるけど。
それで、何が変わるの?
簡単に言うと、5億円を超えた資産があるとさっき話した特別措置が適用されなくなるんだ。
他の注意点は?
まあ、税金に関わることは税理士さんに相談した方が確実だよ。
他の注意点は、預けたお金の払い出し方法が契約先によって変わるんだ。
使いやすいところを選ぶのがコツ!
それに、契約するときや契約している間にかかる手数料も銀行によって違うよ。
相続時精算課税制度とは
これは、贈与額の総額が2,500万円まで贈与税がかからない制度だよ。
教育資金だけじゃなくて、資産になるものなら何でも対象になるんだ。
ただ、資産を贈った人が亡くなったときに、受け取った総額が相続税の対象に加算されるから注意ね。
後、相続時精算課税制度と暦年課税制度の併用はできないからそこも注意だね。
ちなみに、この制度も変わる見込みで、2024年1月1日以降は、年間110万円の基礎控除が受けられるよ。
今までは、相続時精算課税制度では基礎控除がなかった所が変更されたんだ。
では、制度が変わったら1年間110万円までにしておけば、何の税金もかからなくなるんだね。
相続時精算課税制度を使うには、資産を受け取る人が税務署で手続きをしてね。
一度、整理してみよう。
援助したいのは1,000万円、基本的には教育資金に使って欲しいね。
できるだけ税金がかからないように、という視点も入れたいし。
リタイア後の生活資金計画も十分に
教育費を援助した後で、生活費の援助を頼んだら、本末転倒だよ!
税理士さんにも相談しないとね。
執筆者
黒川 一美(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)大学院修了後、IT業界でセールスエンジニア・営業企画として働き、出産を機に退職。
家計を守る立場になり、お金との向かい合い方を見つけるためFP資格を取得。
現在は独立系FP法人であるFPサテライト株式会社所属FPとして活動中。
3人の子育て中の母でもある。